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京都精華大学ギャラリーリニューアル記念展「越境ー収蔵作品とゲストアーティストがひらく視座」

2022.06.17 - 2022.07.23

開場時間
11:00〜18:00
休場日
日曜日
入場料
無料
会場
京都精華大学ギャラリーTerra-S
出品作家
シュウゾウ・アヅチ・ガリバー、いちむらみさこ、今井憲一、ローリー・トビー・エディソン、塩田千春、下道基行、嶋田美子、谷澤紗和子、津村侑希、富山妙子、潘 逸舟
主催
京都精華大学
助成
芸術文化振興基金、公益財団法人朝日新聞文化財団、京都精華大学学長指定課題研究費
協力
株式会社ボイジャー
企画
吉岡恵美子(京都精華大学芸術学部教授)、伊藤まゆみ(京都精華大学展示コミュニケーションセンター特任講師、ギャラリーTerra-Sキュレーター)
企画協力
レベッカ・ジェニスン (京都精華大学名誉教授)、萩原弘子 (大阪府立大学名誉教授)
グラフィックデザイン
塩谷啓悟

チラシダウンロード(PDF)

概要

京都精華大学ギャラリーリニューアル記念展である本展は、既存のジャンルや制度、価値観における「越境」をテーマとし、「ジェンダー/歴史」「身体/アイデンティティ」「土地/記憶」などのキーワードを参照しながら、11名のアーティストの作品を展観する試みです。

過去から今日まで、世界中で地政学上の境界線をめぐる対立や抑圧、秩序の固定化とその崩壊が繰り返されてきました。現在、高度情報化・グローバル化によって人・物・情報の「越境」が日常化し、感染症や環境問題、貧困などの越境的な課題も顕在化しています。一方で、ある集団もしくは個人に固有の慣習や文化、記憶や価値観は、目に見えない境界によって繋ぎとめられ、アイデンティティの構築に結びついています。複雑で緊張に満ちた世界に生きる私たちにとって、時には境界のこちらとあちらを水のように自由に移動し、自分と世界を見つめ直す「越境」の態度が求められるのではないでしょうか。

本展では、京都精華大学が収蔵するシュウゾウ・アヅチ・ガリバー、今井憲一、ローリー・トビー・エディソン、塩田千春、嶋田美子、富山妙子の作品に加え、2000年代以降に活動を開始した5名のゲストアーティストーいちむらみさこ、下道基行、谷澤紗和子、津村侑希、潘逸舟ーの作品を紹介します。出身や世代、表現手法は多様ですが、個人と社会、自己と他者、想像と現実、ジェンダーなどにおける固定的な輪郭をしなやかかつ鋭く揺さぶる11名の表現者が織りなす本展が、私たちのこれからを予感させる複数のしらべが響く場所となること、そしてその響きが多くの方に届くことを願っています。

収蔵作家

シュウゾウ・アヅチ・ガリバー Shuzo AZUCHI GULLIVER 
1947年滋賀県生まれ、東京都在住。1960年代に活動開始。1967年にハプニング集団〈プレイ〉に参加。1973年、《Body Contract(肉体契約)》に着手。作家の死後、肉体を80の部位に分割し、契約を交わした80人に保管を委ねるプロジェクトは今も継続する。作品は、彫刻、版画、写真、パフォーマンス、インスタレーション等多岐にわたるが、自己の存在や身体などのテーマについてラディカルに問う態度が一貫している。

シュウゾウ・アヅチ・ガリバー《重量(人間ボール)》1979年

今井 憲一  IMAI Kenichi
1907年京都府生まれ。1988年逝去。1928年津田青楓洋画塾に入塾し、1933年に北脇昇らと独立美術京都研究所を創設。1935年に独立美術展初入選。1937年、北脇らとシュルレアリスムの研究会を立ち上げる。1940年、第10回独立美術展にて独立美術協会賞受賞。1951年から73年まで京都市立芸術大学で教鞭を執る。戦前・戦後を通じて京都で活躍し、風景と静物を組み合わせたシュルレアリスム的作風の絵画を多く残した。

今井憲一「スケッチブック No.2」より 1945年

ローリー・トビー・エディソン Laurie Toby EDISON
1942年ニューヨーク生まれ。サンフランシスコ在住。フェミニズム運動、特にファット・フェミニズム(肥満受容)運動を中心に活動。代表作「Women En Large」シリーズでは、「太った女性は美しい」というテーゼのもと、勇気と威厳にあふれた女性たちの姿を写しとめた。「Familiar Men」シリーズも含め、「女らしさ」「男らしさ」という規範や、「見るもの−見られるもの」という関係性の解体を試みる。

ローリー・トビー・エディソン《デビー・ノトキン(「ウィメン・エン・ラージ」シリーズより)》1994年

塩田 千春  SHIOTA Chiharu
1972年大阪府生まれ。1996年京都精華大学美術学部(現芸術学部)卒業。現在はベルリンを拠点とし、古いベッドや衣服、窓枠などを使った展示や、赤や黒の糸を空間に張り巡らせたインスタレーションを世界各地で発表。2015年には第56回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表として選出。生と死という人間の根源的なテーマに向き合い、「存在とは何か」を問いつつ、場所やものに宿る「不在の中の存在」を紡ぎ出す。

塩田千春《空っぽの空間(オランダの精神病院跡地)》2002年

嶋田 美子  SHIMADA Yoshiko
1959東京都生まれ。1982年、カリフォルニア州スクリップスカレッジ卒業。2015年キングストン大学美術史博士号取得。千葉県在住。国家、戦争、歴史、ジェンダーをテーマに、版画や写真、インスタレーション、パフォーマンスなどを手がけてきた。特に、第二次世界大戦における日本とアジアの女性の位置付けや、日本社会に特徴的な家父長制度と女性たちの関係、戦後の日本人および日本のメディアの歴史認識の問題に光をあてようと試みる。

嶋田美子《白い割烹着》1993年

富山 妙子  TOMIYAMA Taeko
1921年兵庫県生まれ。2021年逝去。少女時代を満州で過ごす。戦後、国内の炭鉱をまわり、鉱山や坑夫を描く画家として出発。1960年代には、南米に渡った炭鉱夫たちを追ってラテンアメリカを旅して創作。1970年、軍事政権下の韓国の詩人・金芝河との出会いや、1980年の光州事件を経て、韓国の人々に関する主題や、アジアの国々における日本の植民地支配の傷痕について、絵画やコラージュ、音楽付きスライド上映などの手段を用いて精力的に活動を続けた。

富山妙子《祝 出征(「20世紀へのレクイエム・ハルビン駅」から)》1995年

ゲストアーティスト

いちむらみさこ  ICHIMURA Misako
1971年兵庫県⽣まれ。1994年京都精華⼤学美術学部(現芸術学部)卒業。1996年東京藝術⼤学⼤学院修了。2003年から東京の公園のブルーテント村に居住。テント村の住人とカフェ「エノアール」を立ち上げ、多様な人たちが集う物々交換カフェを運営。2007年ホームレスの⼥性たちのグループ「ノラ」を設⽴。ジェンダー、貧困、マイノリティ、ジェントリフィケーションの問題に取り組み、様々な活動を通して社会的に排除される人々・領域を可視化する。

いちむらみさこ《family#2》2013年

下道 基行  SHITAMICHI Motoyuki
1978年岡山県生まれ。2001年武蔵野美術大学造形学部油絵科卒業。香川県在住。日本国内に残る戦争遺構を調査・撮影した《戦争のかたち》や、中学2年生への特別授業を通じて、彼らが「身の回りの境界線」について綴った文章を地元の新聞に掲載する《14歳と世界と境》など、普段は意識化されない日常の現象や風景に溶け込んだ事物を独自の手法で調査し浮かび上がらせる。2019年第58回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の代表作家の一人に選出。

下道基行《14歳と世界と境》2013年-
(「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展」展示風景、東京都現代美術館、2021)
撮影:髙橋健治 画像提供:トーキョーアーツアンドスペース

谷澤 紗和子  TANIZAWA Sawako
1982年大阪府生まれ。2007年京都市立芸術大学大学院修士課程修了。京都府在住。「妄想力の拡張」をテーマに陶芸や切り紙によるインスタレーションを制作。近年では、ジェンダーへの関心を強め、男性中心的な美術の価値観の周縁にあり、特権的な技法・制作場所を必要とせず、豊かな表現の可能性を持つメディアとして切り紙の手法に注目。近作の高村智恵子へのオマージュ作品では、女性表現者に対する固定的な評価に揺さぶりをかける。

谷澤紗和子《はいけい ちえこ さま》2021年

津村 侑希  TSUMURA Yuki
1998年京都府⽣まれ。2021年京都精華⼤学芸術学部洋画専攻卒業。現在、東京藝術⼤学⼤学院美術研究科絵画専攻在学中。東京都在住。訪れたことはないがなぜか惹かれる場所や⾵景を主題として扱う。遠い異境への物理的⼼理的距離を地図や映画などから得た知識、Google Earth ストリートビューを活用した調査、そして作家の妄想⼒によって、時間と空間、主観と客観の境界をなし崩しにした独⾃の世界像を作り出そうとする。

津村侑希《アルメニア教会の壁》2020-2021年

潘 逸舟  HAN Ishu
1987年中国・上海生まれ。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。東京都在住。中国で生まれ、幼少期に青森に移住し、日本で育ったという出自を出発点に、社会と個の関係のなかで生じる疑問や戸惑い、アイデンティティの揺らぎをテーマとした作品を制作する。自らの身体を投じて行ったパフォーマンスの映像や写真、身の回りの日用品を用いたやインスタレーションなど、様々なメディアを用いて表現している。

潘逸舟《あなたと私の間にある重さ》2018年

関連イベント

オープニング・イベント  ※終了
出品作家によるギャラリートークを行います。(作家来場予定:シュウゾウ・アヅチ・ガリバー、いちむらみさこ、下道基行、谷澤紗和子、津村侑希、潘 逸舟)
日時:2022年6月17日(金)17:00-
会場:明窓館3FギャラリーTerra-Sほか

下道基行「14歳と世界と境」朗読会  ※終了
プロジェクトで集まった14歳の中学生が書いた文章をまとめた本『14歳と世界と境』の下道氏による朗読会。この本は販売されず人から人へと手渡しで読まれています。
日時:2022年6月18(土)14:00-15:00
会場:明窓館3FギャラリーTerra-Sほか
定員:9名
>参加申込みフォーム

アセンブリーアワー講演会:潘逸舟「表現と居場所」   ※終了
日時:2022年6月23日(木)16:20〜17:50
※学外の方はオンライン聴講のみ・要事前申込

谷澤紗和子 ワークショップ「ことばの切り紙」   ※終了
谷澤氏による作品制作に関するレクチャー後、参加者が今感じている気になる「ことば」を切り紙で表現。できあがった作品をワークショップ会場に展示して鑑賞します。
日時:2022年7月9日(土)14:00-16:30
会場:明窓館3FギャラリーTerra-Sほか
参加費:500円(本学学生は無料)
定員:約20名
>参加申込みフォーム

シンポジウム「作家たちの越境~富山妙子、ローリー・トビー・エディソン、嶋田美子~」  ※要事前申込
日時:2022年7月23日(土)15:00-17:00
ゲスト:
嶋田美子(本展出品作家)
レベッカ・ジェニスン (京都精華大学名誉教授)
萩原弘子 (大阪府立大学名誉教授)
モデレーター:吉岡恵美子(本展担当キュレーター)
会場:黎明館1F・L-101教室 →B1F・L-002教室 ※会場が変更となりました。
定員:50名
>参加申込みフォーム

キュレーターによるギャラリートーク  ※終了
日時:2022年7月2日(土)14:00-15:00(吉岡)、2022年7月18日(月・祝)14:00-15:00(伊藤)
会場:明窓館3FギャラリーTerra-S

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いちむらみさこ アーティストトーク「隔絶、それでも生の際で ージェントリフィケーションとアート」   ※終了
日時:2022年7月15日(金)16:20-17:50
会場:黎明館B1F・L-002教室
>参加申込みフォーム

いちむらみさこワークショップ 「わたしのだれかのこと」  ※終了
日時:2022年7月16日(土)13:00-16:00
会場:明窓館3FギャラリーTerra-Sほか
>参加申込みフォーム

共同開講:マイノリティの権利、特にSOGIをはじめとした〈性の多様性〉に関する知識と、それらを踏まえた表現倫理のリテラシーを備えたアートマネジメント人材育成プログラム「#わたしが好きになる人は/#The people I love are 」
令和4年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業


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※諸般の事情により会期・時間・内容等が変更になる場合があります。最新情報はギャラリーHPでご確認ください。

『越境』を考えるためのおすすめ情報

 

展覧会の関連企画として、本展出品作家や本学教職員に「越境」という言葉・概念を考える上でおすすめの書籍、映画、音楽などをご紹介いただきました。気になるものがあったらぜひチェックしてみてください。
*紹介者の並びは五十音順です。
*一部の書籍は本学の情報館でもご覧いただけます。

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蘆田裕史(デザイン学部教員)

【おすすめの書籍】
『ディスポジション:配置としての世界』柳澤田実編, 現代企画室, 2008年
http://www.jca.apc.org/gendai/kensaku.php

【おすすめの映画】
『アヴァロン』押井守監督, 2001年

【おすすめの音楽、その他】
「bath room」Maison book girl, 2015年

【おすすめの理由】
ひとつの概念をジャンルレスに論じる可能性を見せてくれる本、あっちの世界とこっちの世界の境界をどうつなげられるか/切断できるかを考えることのできる映画、僕たちを支配する先入観をいい意味で裏切ってくれる音楽を選びました。

 

伊藤まゆみ(展示コミュニケーションセンター教員、ギャラリーTerra-Sキュレーター/本展企画担当)

【おすすめの書籍】
『旅 「ここではないどこか」を生きるための10のレッスン Traveling:Towards the Border』東京国立近代美術館, 2003年

【おすすめの理由】
「旅、移動」をテーマにした展覧会のカタログ。「旅」というテーマにあわせ手のひらに収まる小さな手帳サイズになっています。実は展覧会は観れなかったのですが、大学生の時になんとなく展覧会のテーマとカタログの装丁に引かれて手に入れたのを覚えています。安井仲治、瀧口修造、ビル・ヴィオラ、ジョゼフ・コーネル、大岩オスカール幸男、渡辺剛らによる作品図版や企画者のテキストが収録されるほか、空港、国境、移住・移民等、「旅」をめぐるキーワードを交えながらの作家解説文が秀逸で、19年経った今読んでも面白いです。

 

稲賀繁美(国際文化学部教員)

【おすすめの書籍】
『矢代幸雄――美術家は時空を超えて(ミネルヴァ日本評伝選)』稲賀繁美, ミネルヴァ書房, 2022年
https://www.minervashobo.co.jp/book/b595307.html

【おすすめの理由】
越境を体現した美術史家の一例として。同一著者のほかの仕事にも、「越境」関係はおおくあるが、本返答では1件入力のため、本件をあげるにとどめる。

 

ウスビ・サコ(人間環境デザインプログラム教員)

【おすすめの書籍】
『かくれた次元』エドワード・T・ホール著, 日高敏隆; 佐藤信行訳, みすず書房, 1970年
https://www.msz.co.jp/book/detail/00463/

【おすすめの映画】
『デザート・フラワー(原題:Desert Flower)』シェリー・ホーマン監督, 2009年

【おすすめの音楽、その他】
『La Difference』Salif Keita(サリフ・ケイタ), 2010年

【おすすめの理由】
世界の見方は様々である。一つの社会、文化の中に閉じこもることを拒んで、苦難を乗り越えてきた人々のストーリーが映画と音楽に感じられる。また、我々の習慣などいかに異なるかを空間学的、隣接学的に捉えられた著書は「かくれた次元」である。感動する内容なので、ぜひ、ご覧ください。

 

姜竣(マンガ学部教員)

【おすすめの書籍】
『権力の空間/空間の権力―個人と国家の〈あいだ〉を設計せよ』山本理顕, 講談社, 2015年
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000195559

【おすすめの理由】
かつて本学建築学科で教えていた著者が、ハンナ・アーレントを徹底して空間的に読み解き、建築を実践する本。アーレントが、古代において私的なるものと公的なるものとの間に対していうno man’s landを「無人地帯」と訳すのは間違いで、「どちらにも属さない場所」「どちらともつなかない場所」と捉えるべきという。家=オイコスは、都市=ポリスの町並みや道に対するその“外面の現われ”、例えば門構えが都市との関係では家の内部より重要だ。家は独立した概念ではなく都市との関係であり、だから「家と家との境界線」は同時にポリスとの関係なのだ。公的領域と私的領域の中間にあって、二つの領域の関係を守り、保護し、同時に双方を互いに分け隔てる場所、空間そのものが境界であるそこを〈閾〉とよぶ。30年間世界中の家建築を調査し、自ら実践した建築を通して〈閾〉を捉えた本。「越境」は予め境界を措定しているが、山本理顕は境界そのものを追究する。

 

澤田昌人(学長、国際文化学部教員)

【おすすめの書籍】
『復活の日』小松左京, 角川文庫, 2018年
https://www.kadokawa.co.jp/product/321710000583/

【おすすめ理由】
有名な『日本沈没』の世界観を地球規模に広げたもの。「越境」をさらに「越えた」奇跡!

【おすすめの映画】
『ストーカー(原題:СТАЛКЕР / Stalker)』アンドレイ・タルコフスキー監督, 1979年
公式サイト http://www.imageforum.co.jp/tarkovsky/stk.html

【おすすめ理由】
タルコフスキー映画の最高峰『ストーカー』では、登場人物たちが「越境」して「ゾーン」と呼ばれる領域に侵入する。究極のピクニック。

【おすすめの音楽、その他】
『密林のポリフォニー ~イトゥリ森ピグミーの音楽』大橋力録音, 1990年, 2000年

【おすすめ理由】
芸能山城組の組頭である大橋力が魅せられた「ピグミー」の音楽。Amazonのレビューが全てを物語っている・・・。

 

嶋田美子(本展出品作家)

【おすすめの書籍】
『ジェンダー 記憶の淵から』(図録), 東京都写真美術館, 朝日新聞社編, 1996年

【おすすめの理由】
ジェンダー、フェミニズムを正面から扱った日本で最初の展覧会ですが、最近話題になっているインターセクショナリティをすでに具現化したもので、美大生にはぜひ読んで欲しいです。

【おすすめの映画】
『女と虎と孤児』Jane Jin-Kaisen(ジェーン・ジン・カイスン)監督, 2010年

【おすすめの理由】
韓国から幼児の時デンマークに養子に行ったJin-Kaisenによる映像作品で、海外養子、ディアスポラ、戦争、「慰安婦」、基地売春など地域と歴史を縦断する問題を重層的に描いた美術作品です。ちなみに彼女は2019年のヴェニス・ビエンナーレで韓国を代表しました。

【おすすめの音楽、その他】
『Storm』OTYKEN, 2022年
https://www.youtube.com/watch?v=CqwrwwOzVcQ

【おすすめの理由】
OTYKENは最近知ったのですが、シベリア先住民族(アイヌの先祖と言われる)のロックバンドで、民族音楽のルーツを保ちつつ、欧州ーシベリアー極東をつなぐスケールの大きい音楽です。ヴォーカルはじめ女性メンバーが多いのも◎。

 

島本昌典(教学グループ職員)

【おすすめの書籍】
『ハングルへの旅』茨木のり子, 朝日新聞出版, 1986年
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=2973

【おすすめの理由】
自分が知らない言語を学ぶことは「越境していくこと」だと思います。この本は、詩人の茨木のり子さんがハングルを学ぶ中で出会った人々や文化などについて書かれたものです。茨木さんがハングルを学んでいた時代と今との比較も興味深いです。

【おすすめの映画】
『JSA(原題:공동경비구역 JSA』パク・チャヌク監督・脚本, 2000年

【おすすめの理由】
38度線で分断された両国の兵士が、その分断を「越境」して交流することが題材になっている映画です。近年ネットフリックスで話題になった「愛の不時着」や、パラサイトなどに出演している俳優のソンガンホに興味のある人も楽しめる映画だと思います。

 

谷澤紗和子(本展出品作家)

【おすすめの書籍】
『撹乱分子@境界アートアクティヴィズムⅡ』北原恵, インパクト出版会, 2000年
http://impact-shuppankai.com/products/detail/86

【おすすめの理由】
紹介されるアーティストや作品がとても刺激的でかっこいい。10代、20代の時にこれを読んでおきたかった。前作の『アート・アクティヴィズム』(インパクト出版会)1999年も、もちろんお薦め。

【おすすめの映画】
『燃ゆる女の肖像(原題:Portrait de la jeune fille en feu)』セリーヌ・シアマ監督, 2019年
https://gaga.ne.jp/portrait/

【おすすめの理由】
映画の始まりから強く感じさせられる、「これから女側からの話やるからな。」感が、終始一貫して作り込まれた世界観。2曲のみの挿入曲と、その使われ方もとても素晴らしい。

【おすすめの音楽、その他】
『ASIANGAL』valknee, 2020年

【おすすめの理由】
日本語と韓国語、英語が織り交ぜられたリリック(歌詞)がリズミカルに並ぶ。こんな風に楽しみながら文化が混ざり合うのって、とっても自然で魅力的。と思わされる素敵な曲。

 

津村侑希(本展出品作家)

【おすすめの書籍】
『悪場所の発想』廣末保, 影書房, 1997年
http://www.kageshobo.com/main/mokuroku/hirosuetanmotu.html#akubasho

【おすすめの映画】
『こうのとり、たちずさんで(原題:TO METEORO VIMA TOU PELARGOU)』 テオ・アンゲロプロス監督, 1991年

【おすすめの音楽、その他】
「Cómo Me Quieres」Khruangbin, 2018年

【おすすめの理由】
自分が良いと思ったものを誰かに勧めることで、興味を持ってもらおうというというのは勝手な話です。ですが、これを見て下さった方が、また別のどこかでこの名前を見かけたり、手持ち無沙汰の解消になんとなく検索をかけてみる…時があることを見据えて勧めることにしました。私のススメが日常のちょっとした肥やしにでもなれば良いです。

 

萩原弘子(京都精華大学客員研究員、大阪府立大学名誉教授/本展企画協力)

【おすすめの書籍】
Disrupted Borders: An Intervention in Definitions of Boundaries, edited by Sunil Gupta, London: Rivers Oram Press, 1993.

【おすすめの理由】
カナダ系インド人グプタが企画した同タイトルの展覧会図録だが、それだけに留まらず、「境界概念の再定義」をめざすアカデミックな論集でもある。論集には旧英領植民地出身の者が多いが、帝国の側の出身者もいる。富山妙子は展覧会には参加していないが、英国以外の帝国からの論も必要ということで、私に原稿依頼があった。帝国の一員に位置づけられた戦中の日本人であったという自己史に発する富山の作品制作を論じた。刊行された1993年は、1980年代初頭からの英国ブラック・アート展の歴史のなかでも最後の頃にあたり、そんなときに富山に関する論考が英国で刊行されたのは意義深い。私の論考の内容以上に、刊行の歴史性が重要である。

【おすすめの映画】
『国境の夜想曲(原題:Notturno)』ジャンフランコ・ロージ監督, 2020年
https://bitters.co.jp/yasokyoku/

【おすすめの理由】
ウェブマガジン『月刊風まかせ』に拙著の映画評が掲載されているので、そちらを参照されたい。https://kazemakase.jp/2022/02/202202nocturno

 

橋下昂平(広報グループ職員)

【おすすめの映画】
『LIFE!/ライフ(原題:The Secret Life of Walter Mitt)』ベン・スティラー監督, ジェームズ・サーバー原作, 2013年

【おすすめの理由】
この映画は2013年に公開されたもので、自分の視野が狭くなっていると感じたときや、落ち込んでいるときによくみます。主人公が、無くなったネガを追い求め世界各地へ旅に出かけるお話しです。旅先ではいろんな言語や宗教、人種を背景に持つ人たちとの出会いが生まれていきます。旅に出る前の主人公は、自分に自信がなく、ちっぽけな印象がありますが、旅先での出会いが、主人公を大きく成長させていく様が非常に面白いです。世界にある様々な境界線を越え、どんな世界ともつながろうとする勇気を持つことのできる映画です。いま、何か壁にぶち当たって悩んでいる人、もっと広い世界を見てみたい人におすすめです。

 

橋詰知輝(メディア表現学部助手)

【おすすめの書籍】
『デザインのデザイン』原研哉, 岩波書店, 2013年
https://www.iwanami.co.jp/book/b263308.html

【おすすめの理由】
日本を代表するデザイナーの一人、原研哉の本。「デザインのデザイン」という非常に端的な言葉でデザインの可能性を見せる一冊であり、一つの武器で世界を変えていこうとする姿勢は、「越境」という概念にふさわしい姿であると思われる。また、今でこそ、可能性を切り拓き、新たな問題を提起するためのデザイン概念として「スペキュラティブデザイン」というワードは持て囃されているが、原研哉はこうした概念を初期の頃から意識しながらデザインをしてきた人間であると言え、10年近く前に出た本にもその一端が伺えることは興味深い。

 

舟津潤(経営企画グループ職員)

【おすすめの書籍】
『文明崩壊滅亡と存続の命運を分けるもの』(上・下)ジャレド・ダイアモンド著, 楡井浩一訳, 草思社, 2005年
http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_1464.html

【おすすめの理由】
読んだのが4年ほど前で記憶が薄れていますが、アメリカ南西部の先史時代について調査した記載の中で、モリネズミというネズミの巣や排泄物などの調査から人類の歴史をたどるくだりが上巻にありました。この本のおもしろさを特に感じたくだりです。著者の専門は生物学ですが、各所で多様な専門家が混ざり合いながら人類の歴史を繙く展開が非常に読んでいてわくわくしました。専門の知が越境してまざりあい、さまざまな仮説がうまれる展開はまさに研究の醍醐味に思えます。同じように本学の多様な分野のまざりあう場所が本学の学びの醍醐味のように思っています。もちろん著者は本学とは縁はありませんが、本学の延長にある実例を読んだようで本書はとても楽しかったです。

 

森原規行(デザイン学部教員)

【おすすめの書籍】
『闇の夜に』ブルーノ・ムナーリ, 河出書房新社, 2005年
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309278216/

【おすすめの理由】
アーティストでもありデザイナーでもあるブルーノ・ムナーリが制作した仕掛け絵本。絵本に月に見立てた穴が空いており夜の闇を表現していたり。トレーシングペーパーを使い朝露の草むら中をさまよう虫のようなミクロの視点を表現していたり。ギザギザした穴が空いたページをめくるたびに洞窟の奥深くへはまるような奥行き表現をしたり。見せるだけ読ませるだけの絵本ではなく、触ったり、覗いたり、透かしたり、穴が空いていたり、この先が気になってページをめくりたくなるようなインタラクションが各ページごとに組み込まれています。そして、ページをめくるたび、想像をこえるストーリー展開が待っています。アーティストなのか?デザイナーなのか?、アートなのか?デザインなのか?そんな二元論で語るをもこえたクリエイターであるブルーノ・ムナーリ。絵本の既成概念をこえた仕掛け絵本「闇の夜に」を紹介させていただきます。

 

安田昌弘(メディア表現学部教員)

【おすすめの書籍】
『ブラック・アトランティック―近代性と二重意識』ポール・ギルロイ著, 毛利嘉孝他訳, 月曜社, 2006年
https://getsuyosha.jp/product/4-901477-26-9/

【おすすめの映画】
『インターステラー(原題:INTERSTELLAR)』クリストファー・ノーラン監督, 2014年
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=4366/

【おすすめの音楽、その他】
「会津磐梯山」in『Echos of Japan』 民謡クルセイダーズ, 2017年
「윤슬(ユンスル)」in『心理』, 折坂悠太&イ・ラン, 2021年

【おすすめの理由】
「越境」というと、最低2つの予め境界線の決まった領域が有り、その間に橋をかけるというイメージが頭に浮かびますが、わたしはむしろその「橋」のほうが境界線を決めているというような、少し難しい言葉で言うと「関係論」的な思考に興味があります。裏返せば、橋のかけ方によって、それが結びつける領域の性質が変わるということです。自己と他者の関係、自文化と他文化の関係、文化と自然の関係、その間で変な橋のかけ方をしている作品を選んでみました。

 

山田小夜歌(国際文化学部/共通教育機構教員)

【おすすめの書籍】
『目の見えないアスリートの身体論―なぜ視覚なしでプレイできるのか―』伊藤亜紗, 潮出版社, 2016年
https://www.usio.co.jp/books/ushio_shinsyo/1938

【おすすめの理由】
本書は障害者スポーツを「障害があってもできるスポーツ」ではなく、「障害があるからこそ出てくる体の動きや戦略を追求する活動」であるとの観点から、障害者スポーツの楽しみ方を発見していく内容になっています。障害者スポーツとは、いわゆる健常者のスポーツを改良してつくられたもの、と考えがちですが、本書では、そもそも動き方の原理自体が根本的に異なっているのだということがアスリート自身へのインタビューも交えて語られます。障害者スポーツを知ることは、私たちの多様な身体のあり方を知るひとつの手がかりになってくれると思います。

【おすすめの映画】
1. 『生きるためのコスト』ロイド・ニューソン監督, 2004年

2. 『ホワイトナイツ/白夜 White Nights』テイラー・ハックフォード監督, 1985年
https://www.sonypictures.jp/he/2538

【おすすめの理由】
1. 本作は、障害者、同性愛者、ワーキングクラスの人びとなどに対する差別と偏見の眼差しの中に生きる人々をダンスと通して描いた作品です。作中には下肢に欠損のあるダンサーが登場します。「みんな違ってみんないい」の意味を改めて考えさせてくれる作品です。

2. 本作は、東西冷戦下を舞台に、ソ連からアメリカへ亡命した著名な白人バレエ・ダンサーとアメリカからソ連へ亡命した黒人タップ・ダンサー二人の生き様と友情を描いた作品です。国籍、人種、職業は「人」を形成するうえでどのような意味を持つのか、紛争の絶えない今の時代、改めて個人が考える必要のあるテーマだと思います。

【おすすめの音楽、その他】
オペラ『蝶々夫人 Madame Butterfly』ジャコモ・プッチーニ, 1904年(初演)※参考映像 オペラ映画「蝶々夫人」ジャン=ピエール・ポネル演出、1974年

【おすすめの理由】
日本を題材にプッチーニの流麗な音楽に彩られた本作は、今なお傑作として世界中で絶大な人気を誇っています。しかし、ストーリーや歌詞をよくみてみると、本作がいかに白人至上主義的であるかがわかるでしょう。文化的「越境」どころかあえて「区別」するような主題・表現をもつ本作が、ではなぜ傑作として日本でも頻繁に上演が重ねられているのでしょうか。この問題を考えることは、芸術における差別や平等、多様性など「芸術のあり方」を考えることにもつながります。

 

ユースギョン(マンガ学部教員)

【おすすめの書籍】
『恋愛譚』楠本まき, PARCO出版, 2001年

【おすすめの理由】
マンガ家・楠本まきの作品。運命の恋人でありながら、出会うことはない新月と猫目丸の話が「恋愛」や「運命」、「永遠」といった概念が独自の視点から語られる。縦書きと横書きが交差する形式や、美しい線画、また詩と小説、マンガのナラティブが共存するストーリーの構成も加わり、魅惑的な雰囲気を作り出している。

 

吉岡恵美子(芸術学部教員/本展企画担当)

【おすすめの書籍】
1. Borderline Syndrome-Energies of Defense: Manifesta 3, European Biennial of Contemporary Art Ljubljana, International Foundation Manifesta, Cankarjev dom, 2000.
http://m3.manifesta.org/catalogue.htm

2. Over the Edges, S.M.A.K., Stedelijk Museum voor Actuele Kunst, Gent, 2000.
https://smak.be/nl/tentoonstellingen/over-the-edges

【おすすめの理由】
1. 「Manifesta」は「移動型ビエンナーレ」と呼ばれるユニークな国際展。毎回異なるヨーロッパの都市を移動しながら2年に1度開催されます。この書籍は、2000年にスロヴェニアのリュブリャナで開催された第3回Manifestaの図録。同国は1991年に旧ユーゴから独立しましたが、同じ旧ユーゴを構成していたボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボなどでは90年代に独立を巡る紛争が激化。そのような中、開催された本展は「ボーダーライン・シンドローム」と題され、フランチェスコ・ボナーミらの企画により、欧州の文化・歴史・政治の状況に鋭く切り込む内容となりました。図録の作りも特徴的。論考や図版以外に、キュレーターが示したステイトメントに対して広く公募を行い、一般から寄せられたテキストや写真も盛り込まれ、重要なアーカイブとなっています。

2. 2000年にゲント市立現代美術館(s.M.A.K.)の主催で、町中のあちこちの場所を使って展開された展覧会「Over the Edges」の図録です。企画者のヤン・フートは、1986年に「友達の家」という伝説的な展覧会をゲント市内で企画した有名なキュレーター。本展はその発展版として、通り、広場、公共・民間施設などを会場に、60人近くの作家がサイトスペシフィックな展示を行いました。リュブリャナで開催された「マニフェスタ3」と同じ2000年に、ここでも「境界」を問う大規模な展覧会が開かれたことになります。私はゲントには行けませんでしたが、その翌年、この時の出品作家の一人を金沢に招聘し、市内で作品を作ってもらったため、何度も見返した図録です。グラフィックデザインが秀逸で豊富な図版を見るだけもお薦めです。

 

吉村和真(マンガ学部教員)

【おすすめの書籍】
『マンガは越境する!』大城房美; 一木順; 本浜秀彦(編), 世界思想社, 2010年

【おすすめの理由】
文字通り「越境」を共通のテーマとした論集です。ジャンルや市場、表現内容など、11名の執筆者による多面的な考察を通じて、マンガ/MANGAの越境性を理解することができます。推薦者の私自身も、うえやまとち「クッキングパパ」を手がかりに、マンガの登場人物が用いる役割語としての方言と標準語の意義や、地方マンガの歴史的ポジションなどについて論じています。

【おすすめの音楽、その他】
「I Love You」in『LUCKY 7』森高千里, 1993年

 

レベッカ・ジェニスン(京都精華大学名誉教授/本展企画協力)

【おすすめの書籍】
1. 『ディクテ〜韓国系アメリカ人女性アーティストによる自伝的エクリチュール』テレサ・ハッキョン・チャ, 池内靖子訳, 青土社, 2003年
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=1266

2. Transcultural Japan: At the borderlands of Race, Gender and Identity, edited by David Blake Wills and Stephen Murphy-Shigematsu, London: Routledge, 2008.
https://www.routledge.com/Transcultural-Japan-At-the-Borderlands-of-Race-Gender-and-Identity/Willis-Murphy-Shigematsu/p/book/9780415394345

3. Transpacific Borderlands: The Art of Japanese Diaspora in Lima, Los Angeles, Mexico City and Sao Paulo, Emily Anderson, Japanese American National Museum, Los Angeles, CA. 2017.

4. Disrupted Borders: An intervention in definitions of boundaries, edited by Sunil Gupta, London: Rivers Oram Press, 1993.

 

渡辺知規(共通教育機構教員)

【おすすめの書籍】
『越境する数学』西浦廉政編,岩波書店, 2013年
https://www.iwanami.co.jp/book/b263047.html

【おすすめ理由】
まさに混沌とする世界の中で,新たな地平を切り開いてきた軌跡がここにある。